ドキュメント開発

執筆のコツ

取材や調査などが終了し情報収集が済むと、執筆するための素材や条件が整ったことなります。
執筆は次のステップに沿って進めていきます。

  • 取材内容をまとめる
  • 構成案を作成する
  • 執筆する
  • 推敲する
※マニュアル(取扱説明書など)の執筆手順・思考方法は、若干異なるので本項では言及しません。
取材内容をまとめる

取材終了後に、まず行うのは取材内容をまとめることです。
取材のときに聞いた内容の記憶を基に、質問シートや取材メモを読み返しながら書き加えていきます。 時間が経つほど記憶は薄れるので、できるだけ早く作業を行います。
通常は取材メモに沿って時系列にまとめていきます。 取材の開始からの話の流れを順に追って書いていくと、ここではこんな話題に触れたとか、ここでは話が脱線したとか、などの情景が浮かび聞いた内容を思い出せるものです。
なお、ICレコーダーは数値データ、固有名詞、専門用語を確認するときに使います。

構成案を作成する

構成案とはページ物であれば目次(章・節・項)にあたり、書物全体としてのストーリー(筋書き)が存在するものです。 構成案は発信者、目的、内容(質と量)、発信媒体、受け手(読者)、期待する成果(受け手の反応)によって異なります。
例えば、
 ・企業における会社案内、商品パンフレット、製品マニュアル、広報資料なのか
 ・行政機関・団体における刊行物、各種レポートなのか
 ・お店における広告宣伝物なのか
によって構成案の思考方法は変わってきます。
構成案はまず全体像としての筋書きを設定し、導入部・本論部・結論部をどのような骨子に細分化してストーリーにするかを検討します。 次に各骨子の中に関連する話題を盛り込んでいきます。つまり目次の大項目(章)を設定し、次に中項目(節)に細分化してツリー構造を作成していきます。
ストーリーの骨子の作成方法にルールはありませんが、筋書きと骨子を思考する手順の例を紹介します。

■フォーマルな文書で客観的事実を伝える場合(各種レポート、広報資料、ニュースリリース)
   要約(何をする) → 背景(なぜ行うのか) → 現状(今までこうだった) → 展望(今後こうなる)
   現状 → 問題 → 原因 → 解決策 → まとめ

■企業やお店の宣伝要素を伝える場合(商品パンフレット、広告宣伝物)
   現状 → 問題点 → 解決策 → 顧客メリット → 商品特性

■一般の消費者にお店/施設を紹介する場合(情報誌、ムック本)
   要約 → 商品特性 → お店/施設の特徴 → 顧客メリット

■企業が企業(見込み顧客)に商品やサービスの気づきを与える場合(BtoBコンテンツ)
   背景(現状) → 課題認知 → 解決策 → 商品特性 → 企業紹介

ストーリーの骨子ができ、取材した内容にある話題をどのように配置するかをイメージできると構成案が作成できます。
ただし取材した内容量が多く、論点が多岐に渡る場合は、すぐにイメージすることは難しいものです。 このような場合は、まずまとめた内容を要約し仮のタイトルをつけて整理します。 次に要約ごとの関係性、重要度合い、優先順位を勘案しながら話題ごとに集約してストーリーに配置します。
ストーリーの流れや話題(質・量)が、当初の目的や期待する成果に合致しているか吟味する作業を繰り返して構成案を作成していきます。
執筆する
取材内容がまとまり構成案が整理されるとストーリーがイメージでき執筆に着手できます。
ここでは、執筆における留意ポイントを説明します。

■情報の優先順位と取捨選択
構成案が決まると記述すべき核となる情報や表現方法がイメージできます。
ただし執筆する際に、取材した内容のあれも・これも文章にしたい意識に駆られて書き出すと、話題の意図が薄れてしまい全体を通したストーリーもピンボケになることがあります。
書き出す前に取材内容に優先順位をつけて情報の取捨選択をします。 この作業は案外難しく、取材時に苦労して聞き出した情報だから、他にない貴重な情報だから、興味深い情報だから、どうしても書いておきたい心情が働きます。
まず話題の意図との距離が遠い取材内容は思い切って削ります。 次に話題に合致する核となる内容に絞ってから執筆します。絞る内容は質・量や論理展開に応じてメイン/サブとすることもあります。
最後にストーリー展開の上で補足的な情報が必要になった場合、最初に削った情報を書き足します。
また自分の得意な分野や経験のある分野では、知っている知識や感想を加えたくなることがあります。悪くはありませんが、あくまでも理解の促進を補完する程度にとどめます。

■対象読者
発信情報のテーマや周辺環境に対して、情報の受け手(対象読者)のポジションやリテラシーを確認します。対象読者に理解されにくい文章では、期待する成果は得られません。
対象読者は発信者と同じ業界関係者かリテラシーはどの程度かを意識し、知識レベルによって専門用語の使い方や表現方法を配慮して執筆します。
一般の消費者レベルであれば専門用語や業界特有の用語の使用は避けて分かりやすい言葉に置き換えます。どうしても使用する場合は脚注に用語の注釈を記載したり、巻末に用語集を掲載して解説します。
逆に、対象読者の知識レベルが発信者と同等の場合は、言葉を置き換えずに専門用語のままで表現します。

■人称・文体
一人称とは取材対象者が語る文章表現で、情報の発信者は取材対象者になります。文体は「です・ます調」が基本です。
企業やお店の会社案内、広報資料、パンフレット、広告宣伝物が該当し、ターゲットとなるお客様やステークホルダーに対して自社情報を誠実な姿勢で伝えるメッセージになります。
二人称は発信情報の受け手のことを指し対象読者を意味します。
三人称は一人称でも二人称でもないその他を指し、ライターの観点で表現した文章で「である調」「体言止め」が基本です。
新聞、週刊誌、情報誌などが該当します。 新聞や雑誌の記事は文字数が制限される場合があり、である調や体言止めは文字数を調整する上で便利です。 また結論まで導かない表現にして、想像の膨らみや文章へのリズム感を与える効果を演出できます。
なお、一人称であってもトピック内容や文脈によって「である調」を混在させても不自然にはなりません。

■文字数
誌面のレイアウトが設定されている場合は、記事の文字数は概ね決められています
100文字前後とか、1,000文字~1,200文字というように依頼されますが、後日編集の都合で文字数が変更される場合もあります。 文字数は増える場合も減る場合もあるので、決められた文字数よりも1割増し程度の執筆をしておき推敲の段階で文字数を調整します。
なお、取材前から文字数が決まっている場合は、取材相手に事前に文字数や占有ページ数を知らせて話を聞く方が取材はしやすく後でトラブルになりません。

■図表との関係性
図表や画像は文章を補完し対象読者の理解を促進させます。
図表が話題の主体であれば読者が図表と対比しながら読むことを前提にした文章表現にし、図表と文章は目線の流れがスムーズ移動できる場所に配置します。
図表が複数ある場合はそれぞれにキャプションをつけます。キャプションはである調・体言止めで簡潔な表現にします。また他から引用する資料には出典を明示します。

■修飾語
各種レポート、広報資料、ニュースリリースなどのように客観的事実を伝える文章は、形容詞や副詞による修飾はなるべく避けます。 形容詞や副詞は文章に趣きを与え文字数を調整する便利な機能を持ちますが、ライターの主観に依存して客観性が失われることがあります。
修飾する場合は根拠のある事象やデータを提示して説得力のある表現にします。
例えば、「この機能によって生産性が大幅にアップした」よりも「この機能によって生産性が20%アップした」という表現の方が客観性と説得力が増します。
他方、情報誌の紹介記事の場合、情感に訴える修飾表現は読者に余韻を与え期待する効果を高める働きになります。 ただし相応しい表現を選択しないと逆効果になるので適切な使い方が要求されます。
推敲する
原稿の執筆が終了したら、納品する前に推敲します。
できれば1~2日の時間を置いて頭を冷静にしてから読み返します。
ストーリーとしての違和感はないか、話題のつながりが理論的に整合しているか、不自然さはないか、論理の飛躍や矛盾はないかを推敲します。
また、誤字脱字のチェック、「てにをは」や数値、固有名詞、専門用語に間違いがないか見直します。
締切に追われていると読み返す余裕がないときもあります。できれば周りにいる家族、同僚などに読んでもらいます。 専門外の内容であっても不自然な箇所があれば気づいてくれます。